ITストラテジスト試験 午後Ⅱ試験概要

試験概要

ITストラテジスト試験の午後Ⅱは論述試験であり、3問の出題の中から任意の1問を選択し回答する形式です。

また、毎回3問中1問は組込みシステム関連の出題となっています。
※2024年から組込みシステムはエンベデッドシステムスペシャリスト試験に統合されました。

一般的に、この午後ⅡがITストラテジスト試験最大のヤマ場であり、受験者は120分間で2,000~3,000文字程度の論文を手書きで作成する必要があります。

採点基準

午後Ⅱ試験の合否は、点数ではなくA〜Dのランクによって決められ、Aランクのみが合格となります。評価ランクと合否の関係は、以下の表の通りです。

情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 試験要綱 (ipa.go.jp)

午後Ⅱ対策ポイント

Step1.基本的な論文の書き方(参考書)

おススメ参考書籍

下記2冊は受験生の中でも人気が高く、鉄板の参考書になります。

情報処理教科書 ITストラテジスト 2024~2025年版
ITストラテジスト  合格論文の書き方・事例集 第6版

「情報処理教科書」の方は午後Ⅰと午後Ⅱについて解説されており、解答プロセスも詳しく書かれているため、午後問題全体の学習の参考になります。

「合格論文の書き方」は定番の参考書であり、豊富な事例と解説が人気です。
論文の書き方が分からない、何を書けば良いか分からない、という場合の良いお手本となるはずです。

論文を書く上での基本的なお作法(章立ての作り方、論文を書く上での基本的な考え方、禁則処理など)については、この2冊を読めば十分と言えるでしょう。

なので、基本的な部分は上記参考書に譲るとして、本記事においては、より分かりやすく補足したり、テキストには書いていないコツなどを中心に記述していきます。

Step2.論文を書いてみる(過去問、問題集)

本ステップは、はじめて午後Ⅱ(論文形式)に挑む方向けに初歩から記載しています。

午後Ⅱ受験経験がある方は、必要な部分だけご参照いただければと思います。

過去問と解答例を眺めて、全体的な雰囲気を掴む

いきなり過去の午後Ⅱの問題を見て、さぁ書いてみよう、としても、おそらく全然書けずに2時間が過ぎることと思います。

まずは上記の参考書などで、どのような形で出題されるのか、どのように問題文/設問文を読み解けば良いのか、などについて一読してみましょう。

「何を問われているのか全然分からない」という問題もあれば、「これであれば自分の仕事内容と似ているので書けそう」という問題もあるかと思うので、まずはざっくり全体を把握します。

書きやすいネタで1本書いてみる

そして、参考書で基本的な論文のお作法を学び、書きやすそうな過去問を見つけたら、一度通しで論述しましょう。

時間は120分にこだわらず、字数も多かったり少なかったりするかもしれませんが、まずは書けるだけ書きます。

弱点を把握し、勉強の方針を決める

そうして1本論文を書いてみると、足りない部分=弱点が見えてくるはずです。

  • 設問アの時点で時間がかかりすぎている
  • 設問イで何を書けば良いか分からない
  • 全体的な整合性が取れていない

etc

ここで明らかになった弱点を補強していく形で、勉強計画を立てていきます。

前述の参考書の、該当部分を読み返してみるのも良いでしょう。

Step3.出題形式のポイント

午後Ⅱについてはある程度、出題される分野や問われ方のポイントがあります。

過去の出題分野について、まずは下記をご参照ください。

出題分野について

直近5年の出題分野

和歴西暦出題内容
R42022問1ITを活用した顧客満足度を向上させる新商品や新サービスの企画について
R42022問2基幹システムの再構築における開発の優先順位付けについて
R42022問3経営環境の急激な変化に伴う組込みシステム事業の成長戦略の意思決定について
R32021問1デジタルトランスフォーメーションを実現するための新サービスの企画について
R32021問2個別システム化構想におけるステークホルダの意見調整について
R32021問3異業種メーカとの協業による組込みシステムの製品企画戦略について
R12019問1ディジタル技術を活用した業務プロセスによる事業課題の解決について
R12019問2ITを活用したビジネスモデル策定の支援について
R12019問3組込みシステムの製品企画における調達戦略について
H30 2018問1 事業目標の達成を目指すIT戦略の策定について
H302018問2新しい技術情報や情報機器と業務システムを連携させた新サービスの企画について
H302018問3組込みシステムの製品企画戦略における市場分析について
H292017問1IT導入の企画における投資効果の検討について
H292017問2情報システムの目標達成の評価について
H292017問3組込みシステムにおける事業環境条件の多様性を考慮した製品企画戦略について

最近のトレンドとしては、AI技術ビッグデータDXに関連する出題も増えてきています。

一方で定番の出題としては、顧客満足度向上ITを活用した業務改善IT導入新たなビジネスモデルの創造、などは、よく問われる分野と言えます。

論文ネタを準備するにあたっては、上記を意識して準備モジュールを作成するのがおススメです
※準備モジュール:論文作成にあたって準備する「パーツ」のこと。詳細は情報処理教科書 ITストラテジスト 2024~2025年版を参照してください。

出題の趣旨について

出題の分野としては上記の通りですが、設問文に対して問われる問題文についても、一定の傾向があります。

午後Ⅱ問題では、この「問題文の趣旨」(=論述が求められるポイント)について過不足なく言及することが、合格の必須条件となります。

よくある問題文の趣旨としては、下記のような内容があります。

作成する論文ネタについては、どの内容が問われても良いように準備しておくことが重要です。

設問ア
  • 会社紹介
  • 経営課題
  • 事業概要
  • 事業特性
  • 事業戦略
  • 不安材料
  • IT(システム)の導入目的
設問イ
  • 現行の課題
  • 検討内容/検討方法
  • 対応策
  • 定量情報(「費用3割削減」「売上3千万増」などの定量的な表現)
設問ウ
  • 経営層への説明
  • 提案内容
  • 経営層からの評価
  • 経営層からの指摘事項
  • (指摘を受けての)改善点
  • 投資対効果

Step4.論文ネタを作成する

ひと通りの流れが理解出来たら、過去問に取り組んで論述してみます。

しかし、受験者については「普段の仕事はIT戦略などと関係ないので、業務経験からは書けるネタが無い」という人も多いかと思います。

そのような場合、どのようにネタを収集するか、については、下記2パターンをご紹介します。

午後Ⅰ問題文からネタを収集する

メジャーな方法の一つが、「午後Ⅰの問題文を参考にする」というものです。

午後Ⅰの問題文は、事例会社の現状、問題点、課題などが分かりやすく整理された形で記載されているため、準備モジュールとしても有用です。

勿論、全てをコピーだと採点官に「どこかで見たな…」と思われてしまうかもしれないので、適宜アレンジを加えた上で、オリジナルの準備モジュールとします。

ビジネス書からネタを収集する

もう一つオススメなのが、ビジネス書からのネタ集めです。

特にDX関連などは豊富に出版されており、会社の背景や事業スタートに至るまでの経緯が詳しく書かれている本などもあるので、設問アやイに流用できます。

以下の書籍は事例が豊富に紹介されており、普段新規事業開発やDXなどにかかわりが無くても、イメージがつきやすいのでおススメです。

記載された事例をモデル会社として、準備モジュールを考えていきましょう。

DX経営図鑑
いちばんやさしいDXの教本 人気講師が教えるビジネスを変革する攻めのIT戦略 「いちばんやさしい教本」シリーズ

異なるジャンルで5本作成する

ある程度ネタが溜まってきたら、準備モジュールを作成します。

ここで重要なのが「異なるジャンルの論分パターンを準備する」という点です。

同じジャンルで何本も論文を書いても、あまり意味がありません。

どんな分野が出題されても対応できるよう、異なる分野でモジュールを準備します。

一例として、私が準備した分野は下記5パターンです。

それぞれの論文ネタについて、前述の「出題の趣旨」 について書けるように準備しておきます。

論文タイトル対応分野
サービスデスクにおけるクラウドシステムの導入業務分析、IT導入、AI技術の応用
AIシステム導入による営業プロセスの効率化DX推進、新たなビジネスモデルの創造、AI活用DX推進
タイヤメーカーにおけるタイヤ摩耗検知のIoTシステムDX推進、IoT、ビッグデータ、組込みシステム
飲食業におけるDXによる新サービスコロナ禍での対応、新たなビジネスモデルの創造
印刷会社におけるDX推進コロナ禍での対応、AR

モジュールを充実させる

過去問を切り口に準備モジュールを準備したら、今度はモジュールの充実を図ります。
例えば、R3(2021年)問1の出題内容と設問文は下記の通りです。

問題文
デジタルトランスフォーメーションを実現するための新サービスの企画について

設問ア
「あなたが携わったDXを実現するための新サービスの企画について、背景にある事業環境、事業特性、DXの取組の概要を、800字以内で述べよ。」
設問の要求事項:「背景にある事業環境」「事業特性」「DXの取組の概要」

設問イ
「 設問アで述べたDXを実現するために、あなたはどのような新サービスを企画したか、ターゲットとした顧客とそのニーズ、活用したデータとデジタル技術とともに、800字以上1600字以内で具体的に述べよ。」
設問の要求事項:「企画した新サービス」「ターゲット顧客」「顧客ニーズ」「活用したデータ」「デジタル技術」

設問ウ
「設問イ で述べたDXを実現するための新サービスを具体化する際には、あなたは経営層にどのような提案を行い、どのような評価を受けたか。評価を受けて改善したこととともに、600字以上1200字以内で具体的に述べよ。」
設問の要求事項:「(新サービスを具体化するための)経営層への提案」「(提案の)評価」「評価を受けて改善したこと」

過去問演習で上記を解いて、それぞれの設問の要求事項(=出題の趣旨)についてネタをストックしたとしましょう。

ただし、同じ問題が出ることは無いので、本番では何らかの違った切り口からの質問がされると見ておいて間違いありません。

例えば、設問アだと「背景にある事業環境」ではなく「事業目標」であったり、「事業特性」ではなく「事業課題」だったりします。

午後Ⅱの難しい部分はこの点で、下記の「失敗パターン」に心当たりのある方も多いと思われます。

午後Ⅱのよくある失敗パターン

事前にストックした論文ネタが本番でぴったり当てはまらない
→本番で考えて書く
 →前後の整合性が取れなくなってしまう
  →考えることで時間を使ってしまい時間切れ

この対策としては、色々なパターンの準備モジュールを揃えておくことです。

例えば、「サービスデスクにおけるクラウドシステムの導入」について論文を準備しておくとして、前述のR3(2021年)問1の設問アで問われている趣旨は「背景にある事業環境」「事業特性」「DXの取組の概要」でした。

これに加えて、「もし、事業課題が問われたらどう答えるか」「経営課題が問われたらどう答えるか」などについて、論文ネタに準備モジュールを追加していきます。

そうした形で、「論文ネタ5本」×「よくある問題文の趣旨」をストックしておくと、本番において「考えるという作業」を極力減らすことができます。

ちなみに、手書きで筆記するスピードは人によって違うと思いますが、私の場合は(手本を写すだけで)400文字/10分のスピードでした。
2,400文字記述したとして、「書く」だけで60分。到底じっくり考えている暇はありません。

本番で緊張していることも加味すると、極力「考える」という作業を減らし、「準備モジュールの組み合わせ」作業だけをすれば良いように、準備を万全に整えることが、午後Ⅱ攻略のカギと言えるでしょう。

いかがでしたでしょうか?

本記事が、皆さまのITストラテジスト試験合格のお役に立てれば幸いです。