はじめに:法人成りとは
「法人成り」とは、個人事業主が会社(法人)として事業を行うことを指します。
具体的には、個人事業主として事業をしている個人が、株式会社または合同会社を立ち上げる場合が大半です。
個人事業主は、事業主自身が事業の責任を負いますが、法人は会社という組織自体が責任を負うため、個人財産と事業財産が分離されます。
- 個人事業主と法人の違い
- 責任の所在:法人は有限責任
- 税金の計算方法:役員報酬の給与所得控除額分の節税や配偶者控除が可能
- 法人成りのメリット・デメリットを簡単に解説
- メリット:節税、信用度向上、リスク分散など
- デメリット:手続きの煩雑さ、コスト増加など
本記事では、法人成りのメリット・デメリットや、どのタイミングで法人成りを検討すべきか、などについて解説します。
法人成りのメリット
個人事業主から法人化することによって、さまざまなメリットがあります。
節税効果
法人税率は所得税率よりも低い場合が多い
個人事業主は、売上から必要経費を差し引いた残りが自分の「所得」となります。
一方で、会社の場合、社長の所得は「役員報酬」という形で会社が社長に支払い、そのうえで会社に利益が残ったら、法人税が会社に課税されます。
法人成りする場合、この会社の法人税と社長個人の所得税を合計して事業全体の税負担を検討しなければなりませんが、形式として個人事業よりも法人の方がメリットが多い税制となっています。
経費計上できる範囲が広がる
個人事業主が事業を遂行するために使ったお金を「必要経費」と呼び、会社の場合は(会計上)「経費」と呼びます。
例えば個人事業主の場合、車で移動した際、それがプライベートで買い物に行ったのか、取引先に移動するために使ったのかを区別することができません。
一方で、会社の場合はプライベートな使用は存在せず、すべて事業活動のために支出されたとみなされます。
そのため、必然と会社の方が経費として認められる範囲が広がることになります。
社会的信用度向上
法人成りすると、社会的な信用度が向上します。
会社の中には、取引先は株式会社に限定する(=個人事業主やフリーランスとは契約しない)と規定している会社も多いため、法人成りによりビジネスパートナーとの取引が円滑になる、というメリットが考えられます。
また、求人の際にも個人事業主よりも会社の方が有利となります。
働く側としては、法人の方が福利厚生面で安心できるためです。
商売は信用が第一。
法人成りすることによる信用度の向上は大きなメリットです。
経営リスクの分散
会社は「法人格」を持っています。
法人格とは、法律に基づいて団体に与えられる法律上の人格で、組織や団体が権利や義務の主体となる資格を持つことを指します。
つまり、会社で行った事業の売上というのは、(社長個人ではなく)「会社のお金」とみなされます。
そのため、個人財産と事業財産が分離されるため、仮に事業の失敗による損失が発生したとしても、個人財産を差し押さえられる、といった個人に及ぶリスクが軽減されることとなります。
※ただし、事業のために会社が金融機関から借入する場合などで、社長個人が連帯保証契約を結んだ場合などはこの限りではなく、個人事業主と同じく社長にも返済義務が発生します。
法人成りのデメリット
法人成りにはさまざまなメリットがある一方、組織や会計のルールが厳格化されることとなるため、デメリットと感じる事項もあるでしょう。
法人成りに伴い、以下のような負担が増えることがデメリットと言えます。
手続きの煩雑さ
会社は法人格を持つというのは前述の通りですが、権利や義務の主体となる資格である法人格を作成・維持するのはなかなかに大変です。
会社の設立から日々の業務、そして年次でやらなければならないことなど、膨大な手続きが発生します。
会社設立時の手続き
会社設立の手続きは、個人事業主の開業よりも手間がかかります。
具体的には、会社の憲法である「定款」を作成したり、会社という法人格を法務局へ届け出る「会社設立登記」が必要となってきます。
そのほか、社会保険への加入が必要となります。
一般的に社会保険は「健康保険」「厚生年金保険」「労災保険」「雇用保険」がありますが、会社を設立すると健康保険と厚生年金保険への加入は必須となります。
しかも、健康保険料と厚生年金保険料については、会社が半分を負担しなければなりません。
最近は、オンラインの経理ソフトのサービスで会社設立サポートのサービスなどもありますが、なかなかに会社設立は大変です。
運営コストの増加
会社を設立したら、日々の業務でもやらなければいけないことが増えます。
そのため、会社の維持にかかる運営コストも増えることとなります。
経理作業の増加
会社を設立すると、個人財産と事業財産が分離され、「会社のサイフ」ができることになります。
この会社のサイフの中身については、複式簿記で帳簿を付けなければいけない、という決まりがあります。
経理を未経験で、自分で複式簿記で帳簿を付ける、というのはなかなかに難しいものがあるので、できれば個人事業主やあるいは会社員の時点で、簿記3級程度の勉強をしておくことをおススメします。
また、最近の会計ソフトは、簿記の知識がなくても画面の表示に沿って進めていけば自動的に複式簿記の形に帳簿を付けてくれるサービスが大半なので、活用すると良いでしょう。
会計ソフトについては、以下の記事もご参照ください。
課税、税金計算の複雑化
会社は個人事業主よりも税金計算が複雑になります。
まず、会社が存在するだけで「法人都道府県民税」や「法人市区町村民税」といわれる住民税が発生します。
そして、基本的には売上から経費を差し引いた金額に対してもろもろが課税されるのですが、例えば会社の経費の中から社長に対して「役員報酬」が支払われ、そこから残った利益から法人税が計算されます。
それとは別に、「法人住民税」「法人事業税」「地方法人特別税」などが加算されます。
本記事では詳細は割愛しますが、法人の課税は非常に複雑なので、税理士さんと月額数万円で顧問契約を結ぶケースが大半です。
法人成りにあたっては、顧問税理士も検討しましょう。
法人成りを検討するタイミング
個人事業主と法人のメリット/デメリットについて触れましたが、実際いつのタイミングで法人成りをした方が良いのでしょうか?
法人成りを検討するタイミングとしては、以下のような場合が考えられます。
売上高が「1,000万円」を超えたとき
もっとも一般的な目安としては、「売上高が1,000万円を超えたとき」が法人成りを検討すべきタイミングです。
これは、年間の売上が1,000万円を超えると、個人事業主・法人にかかわらず消費税の納税義務が生じるためです。
また前項の通り、節税の観点からも法人の方が節税効果が高いため、売上高が伸びている場合は法人成りのメリットが高くなると言えます。
事業規模が拡大しているとき
事業規模が拡大してくると、「組織化による業務分担」が必須となってきます。
業務量も増え、個人では対応しきれない状況となるため、法人化することで、部門を設け、役割分担を明確にすることができ、業務の効率化が図れます。
経営リスクが高まっている場合
個人事業主の場合、事業で負債を抱えた場合、無限責任(=債権者に対して負債総額の全額を支払う責任を負うこと)を負うことになりますが、法人化により事業の負債が個人資産に及ぶリスクを軽減できます。
法人の場合、法人格と個人が分離され、個人は有限責任(=債権者に対して出資額を限度として、責任を負うこと)となります。
万が一、事業が失敗した場合でも、個人の財産を守ることにつながります。
後継者問題を抱えている場合
事業を後継者へ引き継ぎたい場合も、法人のメリットがあります。
法人化することで、会社の所有権は株式に代表され、経営権は役員に委任されます。
これにより、後継者への株式の譲渡や役員の交代を明確な手続きで行うことができます。
また、個人事業の場合、事業資産と個人資産が混在しているため、相続手続きが複雑になりがちというデメリットがあります。
法人化することで、事業資産を会社に明確に分離し、相続手続きを簡素化することができます。
法人成りの手続き
法人成りの手続きとしては、会社設立の手続きを踏むこととなります。
- 会社設立の手続き
- 定款の作成
- 会社登記
- 税務署への届出
- 法人設立の届出
- 税務申告
- 社会保険の手続き
- 健康保険、厚生年金保険の手続き
- その他
- 銀行口座開設
- 印鑑証明書の取得
会社設立の手続きについては、以下にて詳しく解説しているためご参照ください。
失敗しないためのポイント
必ずしも法人成りした方が良いというわけではなく、事業内容や事業をどう展開していきたいかによって選択肢は異なります。
検討にあたって以下のような点に注意しましょう。
- 事前の準備
- 法人設立の目的を明確にする
- 必要な資金を準備する
- 適切な事業計画を作成する
- 専門家への相談
- 行政書士、税理士などに相談し、適切なアドバイスを受ける
- 資金計画
- 法人設立費用、運転資金などを計画的に準備する
- 税理士との連携
- 税務に関する手続きや相談をスムーズに行うため、税理士と連携する
まとめ
法人成りは、個人事業主が事業を拡大し、安定させるための有効な手段の一つです。
しかし、メリットだけでなくデメリットも存在するため、慎重に検討する必要があります。
専門家と相談しながら、ご自身の事業状況に合った最適な選択を検討してくださいね。