ITスタートアップの成功には、堅固な法的基盤が不可欠です。

しかし、本業であるサービスについては自信を持っていたとしても、バックオフィス業務である法律や取引条件などについては詳しくないという場合も多いのではないでしょうか。

契約書はビジネスの取引や関係を保護し、リスクを最小限に抑えるための重要なツールです。この記事では、ITスタートアップのための契約書作成術について紹介します。

契約について知ろう

事業を行うにあたっては、さまざまな契約書が必要です。

その中でも特にIT業界でよく使われる契約書としては下記のようなものがあります。

事業の性質に合わせて必要な契約書を選定しましょう。

  • 売買契約
  • 業務委託契約
  • 知的財産権
  • 秘密保持契約
  • システム開発委託契約
  • 提携約款

売買契約

売買契約は、一般的にイメージがつきやすい契約でしょう。
売買契約書は、モノやサービスの売買契約の場合に取り交わす契約書です。

例えば、個人で家電量販店でPCを購入する場合などは、わざわざ売買契約書を取り交わすことはありません。

これは、民法上は売買契約においては契約書の取り交わしは必須とされておらず、「売りたい」「買いたい」という当事者間の合意があれば売買契約が成立するためです。

一方で、例えば不動産の売買の際には契約書の取り交わしが一般的です。

これは、不動産という高額な商品の売買においては、「当事者間の認識違い」「言った言わない」といったトラブルが起こりやすいため、そのようなトラブル防止のため必要となっている、という認識でOKです。

IT業界での売買契約の例としては、ソフトウェアやライセンスの販売/購入などがあります。

※売買契約書のテンプレートについては、本記事最後にリンクを掲載しているので、ご参照ください。

業務委託契約

「業務委託契約」はIT業界ではよくある契約形式です。

業務委託契約とは「請負契約」「委任(準委任)契約」の総称であり、それぞれ以下の違いがあります。

  • 請負契約
    請負契約は「請け負った業務を”完成させる”」という点に特徴があります。請負人は受諾した作業を完了させる必要があり、仕事が完成すると対価として報酬が支払われます。
    システム開発などはこのパターンが多いと言えます。
  • 準)委任契約
    委任契約は一般的に作業の時間や期間によって報酬が決まる契約のことを指します。
    特徴としては委任契約は「遂行」を目的としている、という点です。
    システム運用など、完成させる成果物が無い(業務の遂行自体が目的の)場合は準委任の契約となることが一般的です。
    委任準委任の違いとしては、遂行するのが法律行為の場合は「委任」。それ以外の場合は「準委任」となります。そのため、IT業界では「準委任」が一般的です。

知的財産権

知的財産権として代表的なものは、「特許権」「実用新案権」「意匠権」「商標権」(=産業財産権四法)があります。

例えばソフトウェアやアプリなど、他社による模倣が自社の死活問題となってくる分野においては、知的財産権の保護は経営戦略上重要となってきます。

知的財産権については、以下の記事も参照ください。

https://tri-support.com/archives/177

秘密保持契約書(NDA)

ビジネスにおいては、取引を行う前段階又は取引の中で、自社の秘密情報を開示する場合もあります。

そのような場合に、その情報を秘密にして公開しないことを約束しますよ、というのが秘密保持契約です。
「NDA」(Non-Disclose Agreement)とも言います

どのような情報を秘密情報とするか、当事者はどのような義務を負うか、契約に違反した場合の損害賠償は、などの項目を定めます。

会社の四大資源(ヒト・モノ・カネ・情報)のひとつである情報は、特にIT業界ではその比率が高く、秘密保持契約書は必須と言えるでしょう。

定型約款

例えば、ソフトウェアやクラウドサービス、アプリケーションを利用する場合、利用開始前に利用約款が表示され、約款に合意しますか?と聞かれますね。

ある特定の者(=サービス提供事業者)が不特定多数の者(=ユーザー)を相手に行う取引を「定型取引」と言い、その際に提示する約款を定型約款と言います。

アプリを提供したり、SaaSでソフトウェア利用サービスを提供したりする場合など、必ず準備しておかなければいけないドキュメントのひとつと言えます。

また、定型約款は基本的には一方通行で、事業者が「このルールでサービスを提供しますよ」という内容です。

しかし、それを良いことに事業者が「自分に有利な内容を盛り込んでおこう」と考えたとします。
例)「提供するソフトウェアにより利用者がいかなる損害を負っても、事業者は損害賠償責任を負わない」など

そのような内容については、例え記載されていたとしても「ユーザーはその条項に合意しなかったと見做す」というルールが定められているため、定型約款を作成する際には注意が必要です。

契約書雛形参考サイト

まとめ

専門化のアドバイスの活用

1人で起業する場合やスタートアップの場合、社長として本業の傍らこれら契約書などについても対応しなければならない場合が多いでしょう。

最初はひな形を使って極力省力化することも必要ですが、相手との折衝や内容に関する理解が必要になってくると、専門的な知識と経験も必要となってきます。

社内で体制を整えることができるまでは、行政書士弁護士といった外部の専門家のアドバイスを活用したり、あるいは現在は契約書作成をサポートするクラウドサービスなども存在します。

また、今回は対外的な契約をメインに解説しましたが、会社経営においては対内的な契約として雇用契約なども存在します。

適切な契約書を作成することで、ビジネスのリスクを軽減し、健全なビジネス環境を築き上げていきましょう。