IT分野での起業は、革新的なアイデアと独自の技術が成功の鍵となります
しかし、アイデアや技術を守り、競争力を維持するためには知的財産戦略が不可欠です。
この記事では、IT起業家が知的財産を守るために知っておくべきポイントを解説します。
1. 知的財産の種類と選定
知的財産は特許、商標、著作権などさまざまな形態があります。
まず、自社の強みとなる部分を明確にし、どの知的財産権が最適かを選定します。
技術や製品に関する特許やデザイン権を取得することで、他社の模倣から守ることができます。
知的財産権の種類
知的財産権としては、主に下記のような種類があります。
- 特許権
特許は「新規で非自明な発明」を保護する権利です。発明の製造方法や製品に対して取得でき、特定の期間内に他者の無断利用を防ぎます。特許は技術的な革新やアルゴリズムなどのソフトウェアも対象となります。起業家が独自のテクノロジーを保護し、競合他社から差別化するために活用します。 - 商標権
商標は商品やサービスを識別するための記号や名称を保護する権利です。ロゴやブランド名、スローガンなどが商標として登録されます。独自の商標を保護することで、顧客に対して信頼性や品質を示すことができます。商標はビジネスの識別子として重要な役割を果たします。 - 著作権
著作権は文学・芸術作品を保護する権利で、音楽、ソフトウェア、デザイン、文章などが該当します。作品の創造者に一定期間の独占的使用権を与えることで、無断複製や改変を防ぎます。IT分野ではソフトウェアの著作権保護が重要であり、コードの盗用や不正コピーから守る役割を果たします。 - 意匠権
意匠権は製品の形状や外観デザインを保護する権利です。製品のデザインが独自性を持ち、他社の製品とは異なる場合に申請できます。IT分野では、アプリやウェブサイトのユーザーインターフェース(UI)デザインを意匠権で保護することがあります。
2. 早い段階での申請
知的財産権を保護するためには、早い段階での申請が重要です。
特に特許の場合、公開された後に申請することはできません。
また、企画などの早い段階で知的財産権を考慮に入れて開発を進めないと、発売直前あるいは発売後に他社の特許を侵害していることが分かった、となって多大なリカバリの労力を強いられることになりかねません。
アイデアや技術が確立されたら、適切なタイミングで申請手続きを進めましょう。
申請例~特許取得までのスケジュール感~
特許の例で言うと、出願から登録まで上記のような流れで進み、およそ1年~数年かかることもあります。
また、費用は20万円弱程度かかります。
特許の対象となるのは技術的な革新やアルゴリズムであるため、技術的な要件としても比較的ハードルが高いと言えます。
一方で、商品名やサービス名を登録する商標や、UIデザインを保護する意匠権は1年程度で登録が可能であり、費用は5万円程度です。
「発明」ほどの革新性は不要であることから、中小企業などでも特許に比べ取得率は高くなっています。
折角創り出した製品やサービスが、他社から知的財産侵害で訴えられてサービス継続できなくなったり、あるいは他社に模倣されて伸び悩んでしまったり、とならないよう、早いうちから知的財産戦略を描いておく必要があります。
3. 海外展開を見据えた権利保護の検討
知的財産権は国によって保護の対象やルールが異なります。
日本で商標登録したとしても、それが海外まで効果が及ぶわけではありません。国際展開を考えている場合、どの国でどの知的財産権を保護するかを検討しましょう。
その際は国際的な特許や商標登録制度を利用して、グローバルな保護を図ることが可能です。
国際的な特許や商標登録制度について
権利は各国ごとに取得する必要がありますが、手続を簡単にするために国際出願制度があります。
複数の国での権利化を考える場合、国際出願を利用すると、手続的にも金銭的にも有利になる場合があります。
国際出願の種類としては、下記のようなものがあります。
- 特許:特許協力条約(PCT)に基づく国際出願
- 意匠:ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく国際出願
- 商標:マドリッド協定議定書による国際出願
具体的な手続きについては、知的財産の専門家である弁理士に相談すると良いでしょう。
4. 知的財産戦略を考える
知的財産権の出自としては、自社の権利や財産を守るためのものでしたが、より積極的に知的財産権を活用し、技術を公開することで業界全体の発展に貢献したり、ライセンス契約によって他社に技術を提供し、収益を得ることも可能です。
オープン&クローズ戦略
知的財産戦略の基本として「オープン&クローズ戦略」があります。 「オープン&クローズ戦略」とは、製品等について、以下のような領域を構築する戦略を指します。
- 市場拡大のためオープンにする領域
他社に自社技術の使用を許可したり、無償化・定額ライセンス化する戦略。 製品やサービスを広く普及させることを目的とする。 - 自社の利益を確保するためのクローズにする領域
独自技術の秘匿化により、技術の保護と競争力の強化を目的とする。
いずれも、知的財産ありきではなく経営戦略・事業戦略があり、その上で知的財産をどう活用するか、というアプローチが必要となってきます。
【参考】知的財産権活用事例
https://www.jpo.go.jp/support/example/index.html
5. 相手の知的財産との調整
競合他社やパートナーの知的財産との調整も大切です。
特許や商標の権利が重なる場合、訴訟や紛争を避けるために協力や交渉が必要となることもあります。
専門家のアドバイスを得ながら戦略を練りましょう。
知的財産権の調整方法
他社の特許や商標について知るには、J-PlatPatを使った検索が有効です。
J-PlatPatは特許や商標などについて無料で検索ができるサービスで、現在どのような知的財産の登録・申請がされているか、を確認することができます。
特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
ただし、自分が開発・提供しようとしている技術・サービスが他社と競合するかどうかの詳細な判断は専門家でなければ難しいという面もあるので、具体的な調整については弁理士などの専門家へ相談されると良いでしょう。
まとめ
知的財産戦略は、IT起業家が競争力を維持し、ビジネスを成功に導くための重要な要素です。
適切な知的財産権の保護と活用を通じて、独自のポジションを築き、持続的な成長を実現しましょう。