はじめに:フリーランス新法とは?
2023年4月28日に成立、2024年11月1日に施行される「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」(フリーランス・事業者間取引適正化等法案。いわゆる「フリーランス新法」)は、個人で働くフリーランスの労働条件を改善し、働きやすい環境を整備することを目的とした法律です。
経済産業省の調査によると、日本のフリーランス人口は近年急増しており、その数は209万人と推定されています。
働き方の多様化が進む中、フリーランスと発注企業との間で、報酬の遅延や労働条件の不透明さなどが問題視されてきました。
この法律によって、取引条件の明確化や社会保険加入の促進などが図られ、より公正な取引関係が築かれることが期待されています。
フリーランス新法の主な内容
フリーランス新法の主な内容は以下の通りです。
- 書面などによる取引条件の明示
業務内容、報酬、支払い時期、解約条件などを書面または電磁的方法(=メールやSNSのメッセージ等)で明示することが義務付けられます。
書面化することで、後々のトラブルを防止することができます。
取引条件として明示する事項は9つです。- 報酬の支払い遅延の禁止
原則として業務完了後60日以内までに報酬を支払わなければなりません。 - 7つの禁止行為
フリーランスに対して1か月以上の業務を委託した場合には、7つの行為が禁止されています。- 受領拒否(注文した物品または情報成果物の受領を拒むこと)
- 報酬の減額(あらかじめ定めた報酬を減額すること)
- 返品(受け取った物品を返品すること)
- 買いたたき(類似品等の価格または市価に比べて、著しく低い報酬を不当に定めること)
- 購入・利用強制(指定する物・役務を強制的に購入・利用させること)
- 不当な経済上の利益の提供要請(金銭、労務の提供等をさせること)
- 不当な給付内容の変更・やり直し(費用を負担せずに注文内容を変更し、または受領後にやり直しをさせること)
- 募集情報の的確表示
広告などによりフリーランスの募集情報を提供する際には、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず、また、募集情報を正確かつ最新の内容に保たなければなりません。 - 育児介護等と業務の両立に対する配慮
フリーランスに対して6か月以上の業務を委託している場合、フリーランスからの申出に応じて、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければなりません。
また、6か月未満の業務を委託している場合も配慮するよう努めなければなりません。配慮の例としては、以下のような対応があげられます。- 「妊婦健診がある日について、打ち合わせの時間を調整したり、就業時間を短縮したりする」
- 「育児や介護などのため、オンラインで業務を行うことができるようにする」
- ハラスメント対策に関する体制整備
ハラスメントによりフリーランスの就業環境が害されることがないよう、相談対応のための体制整備などの必要な措置を講じなければなりません。
体制整備などの必要な措置の例としては、以下の対応が挙げられます。- 「従業員に対してハラスメント防止のための研修を行う」
- 「ハラスメントに関する相談の担当者や相談対応制度を設けたり、外部の機関に相談への対応を委託する」
- 「ハラスメントが発生した場合には、迅速かつ正確に事実関係を把握する」
- 中途解除等の事前予告・理由開示
フリーランスに対して6か月以上の業務を委託している場合で、その業務委託に関する契約を解除する場合や更新しない場合、少なくとも30日前までに、①書面②ファクシミリ③電子メール等による方法でその旨を予告しなければなりません。
また、予告がされた日から契約が満了するまでの間に、フリーランスが解除の理由を請求した場合、同様の方法により遅滞なく開示しなければなりません。
- 報酬の支払い遅延の禁止
フリーランス新法に違反した場合はどうなる?
違反した場合、発注事業者は行政の調査を受けることになり、指導・助言や、必要な措置をとることを勧告されたり、勧告に従わない場合には、命令・企業名公表、さらに命令に従わない場合は罰金が科されます。
特に悪質な場合は、事業の継続が困難になる可能性もあるので、注意が必要です。
下請法との違いについて
従来、受注者の保護としては下請法があります。
下請法は発注元企業が下請事業者に発注した商品やサービスについて、代金の支払遅延や代金の減額、返品等といった下請事業者に不利益を与える行為を禁止する法律です。
同法は、取引の発注者の資本金が一定の金額以上(1,000万円以上または3億円以上)になる場合に適用される法律です。しかしながら、フリーランスに取引を発注する委託事業者の多くは、資本金1,000万円以下であることが多く、フリーランスとの取引において下請法が適用される場面は必ずしも多くありません。
フリーランス新法は、このような資本金要件の制限なく、フリーランスに対して取引を発注する委託事業者を規制し、従業員を使用せずに業務を遂行する個人のフリーランスを保護する法律である、という違いがあります。
発注者側が気を付けること
フリーランス新法は下請法と違い、発注者側の資本金要件がありません。
つまり、フリーランスに発注するのが中小企業の場合でも、同法の対象となります。
発注者側としては、以下の準備を行う必要があります。
- 契約書の作成
契約書テンプレートを活用したり、専門家(弁護士など)に相談したりして、適切な契約書を作成しましょう。 - 募集情報の的確表示
広告などによりフリーランスの募集情報を提供する際には、募集情報を正確かつ最新の内容に保たなければなりません。必要に応じて、募集情報を見直しましょう。 - ハラスメント対策に関する体制整備
前項の通り、ハラスメントを防止する社内体制の整備が必要です。
まとめ
フリーランス新法は、フリーランスの働き方を大きく変える可能性のある法律です。
個人事業主も、この法律の動向を注視し、必要な準備を進めていくことが重要です。
特に、契約書の作成や社内体制の整備など、時間がかかるものについては早めの準備が大切です。