個人開発アプリで特に気をつけるべき法務関係事項
最近はシステム開発・アプリ開発に関する環境も整備が進み、個人開発がしやすい時代になってきています。
一方で、よくあるのが「法律周りは専門外だから分からない」「トラブルが起きたときにどうすればよいか不安」など、会社の後ろ盾がない個人開発ならではの悩みもあるかと思います。
本記事においては、個人開発で整備が必須となる事項に絞って「これだけは準備しておこう」という項目について解説していきます。
アプリ利用規約
アプリの利用規約は、ユーザーと開発者間の契約を定める非常に重要な文書です。
トラブル発生時に拠り所となるため、曖昧な表現を避け、明確に記述する必要があります。
- 必須項目
- アプリの提供条件と利用範囲
何ができるアプリなのか、利用可能なユーザーは誰か(例:13歳以上)。 - 禁止事項
著作権侵害、公序良俗に反する行為、迷惑行為、不正利用、リバースエンジニアリングなど、アプリの健全な運営を妨げる行為を明確に記載します。 - 免責事項
アプリの動作保証、情報の正確性、損害賠償責任の範囲などを明記します。過度な免責は消費者契約法で無効とされる可能性があるため、注意が必要です。 - 知的財産権
アプリの著作権、商標権が開発者に帰属すること、ユーザーが投稿したコンテンツの権利帰属(ユーザーに帰属しつつ、開発者が利用・二次利用できる許諾を得るなど)を明確にします。 - アカウントの停止・削除
利用規約違反があった場合の、アカウント停止や削除の条件と手続きを明記します。 - 規約の変更
規約を変更する場合の手続き(変更の通知方法、効力発生時期など)を定めます。 - 準拠法・合意管轄
トラブルが生じた際に適用される法律(通常は日本の法律)と、訴訟が発生した場合に管轄する裁判所を定めます。 - お問い合わせ窓口
ユーザーが連絡できる窓口を明記します。
- アプリの提供条件と利用範囲
- SNSアプリ特有の注意点:
- ユーザー間のトラブルに関する免責範囲
- ユーザーが投稿するコンテンツの管理責任(開発者がどこまで責任を負うか、削除要請への対応など)。
- 未成年者の利用に関する保護者同意の取得方法(SNSは特に慎重に)。
利用規約に関しては、以下もご参照ください。
プライバシーポリシー
プライバシーポリシーは、ユーザーの個人情報をどのように収集、利用、管理するかを明示する文書です。
昨今はマイナンバーカードの浸透や、個人情報に関するエンドユーザーの関心の高まりにより、以前よりも「個人情報がどう取り扱われるか」について気を配る必要があります。
プライバシーポリシーの策定は、ユーザーにアプリを安心して使ってもらうためには必須となります。
プライバシーポリシーの必須項目
- 個人情報の定義
プライバシーポリシーで扱う「個人情報」が何を指すかを明確にします。 - 収集する情報の種類
氏名、メールアドレス、電話番号、位置情報、デバイス情報、IPアドレス、行動履歴、SNSアカウント連携情報など、アプリが取得する可能性のある全ての情報を具体的に記載します。 - 情報の収集方法
ユーザーが直接入力する情報、自動的に取得される情報(ログ、Cookie、位置情報、デバイスIDなど)を明確にします。 - 情報の利用目的
収集した情報を何のために使うのか(サービス提供、機能改善、広告配信、問い合わせ対応、統計分析など)を具体的に記載します。「サービス改善のため」だけでは不十分な場合があります。 - 情報の第三者提供: 原則として、本人の同意なしに第三者に個人情報を提供しないこと、提供する場合の条件(法令に基づく場合など)を明記します。
外部サービス(広告SDK、解析ツールなど)を利用する場合は、そのSDKが情報を取得し、外部に送信することを明記し、リンクを示す必要があります。 - 安全管理措置
個人情報保護のためのセキュリティ対策について概要を記載します。 - 個人情報の開示・訂正・削除等
ユーザーが自身の個人情報の開示、訂正、利用停止、削除などを求める権利とその手続きを明記します。 - お問い合わせ窓口
プライバシーポリシーに関する問い合わせ先を明記します。 - ポリシーの変更
プライバシーポリシーを変更する場合の手続きを定めます。
プライバシーポリシーの注意点
- 機微情報(センシティブ情報)の扱い
医療情報、人種、信条などの機微な情報は、原則として取得・利用・第三者提供が禁止されています。もし扱う場合は、利用目的の特定、本人同意など厳格な要件を満たす必要があります。 - 未成年者の情報
未成年者の個人情報を収集する場合は、親権者の同意を得る仕組みや、親権者からの問い合わせに対応できる体制を明記することが強く求められます。COPPA(米国児童オンラインプライバシー保護法)などの海外法規も考慮が必要な場合があります。 - 広告SDK・アクセス解析ツール
広告配信やアクセス解析のために外部SDK(Firebase Analytics, Google AdMob, Adjustなど)を導入する場合、これらのSDKがどのような情報を収集し、どのように利用するかをプライバシーポリシーに明記し、リンクを示す必要があります。
特定商取引法に基づく表示(アプリ内課金がある場合)
アプリ内課金(有料コンテンツ、サブスクリプションなど)がある場合、「特定商取引法」に基づき、特定の情報を表示する義務が生じます。
- 表示義務のある情報
- 販売業者(開発者)の氏名または名称
- 住所
- 電話番号
- メールアドレス
- 販売価格
- 代金の支払時期、方法
- 商品の引渡時期
- 返品に関する特約(デジタルコンテンツは原則返品不可の場合が多いが、その旨を明記)
- 表示場所
アプリ内の分かりやすい場所(例:設定画面内、「特定商取引法に基づく表示」といった項目)に表示する必要があります。
特定商取引法に基づく表示に関しては、以下もご参照ください。
著作権・商標権などの知的財産権
最近は生成AIを活用したサービスも増えてきていますが、それに伴い課題として挙げられるのが、著作権周りの対応です。
生成AIに関しては、まだ法整備が追いついておらず、「都度判断」的な場面が多いのが実態です。
しかし、生成AIに限らずアプリ開発においても、以下のような点に気をつける必要があります。
- コンテンツ利用の注意
- 素材の利用
アプリ内で使用する画像、アイコン、フォント、BGM、効果音など、全ての素材について、著作権者の許諾を得るか、商用利用可能なフリー素材であることを確認する必要があります。
配布元のライセンス(例:Creative Commons)をよく確認し、表示義務がある場合はそれに従います。 - 他社サービスのAPI利用
他社サービスのAPIを利用してデータを取得・表示する場合、そのサービスの利用規約やAPIガイドラインを遵守し、表示義務や利用制限がないか確認してください。
- 素材の利用
- 自身のアプリの保護
- アプリ名・ロゴ
アプリ名やロゴが既に商標登録されていないか確認しましょう。
もし人気が出た場合、将来的な商標登録も検討する価値があります。 - ソースコード
ソースコードは著作権で保護されますが、他者による模倣を防ぐためには、必要に応じて著作権登録を検討することも可能です。
- アプリ名・ロゴ
商標登録などについては、最低限アプリ名やロゴについては類似するサービスやアプリが無いか、自分で調べてみましょう。
不安な場合や、将来的にしっかりマネタイズを考えている場合などは、専門家(弁理士)へ相談する方法もあります。
その他遵守事項
各プラットフォームの規約遵守(App Store / Google Play)
アプリをリリースするプラットフォームの規約は必ず遵守する必要があります。
AppleのApp Store Review GuidelinesやGoogle Play Developer Program Policiesなど、各プラットフォームが定める規約に違反すると、アプリの審査却下や削除、アカウント停止につながります。
- 主な共通事項:
- プライバシー保護(特に個人情報、位置情報、機密情報など)
- 不適切なコンテンツの禁止(暴力、性的な描写、ヘイトスピーチなど)
- セキュリティ(マルウェア、脆弱性など)
- アプリ内課金のルール
- 広告の表示方法
- 知的財産権の尊重
海外の法規制(アプリが国際的に利用される場合)
アプリが日本だけでなく、海外でも広く利用される可能性がある場合、対象国の法規制にも注意が必要です。
一例としては下記のような法規制があります。
- GDPR (General Data Protection Regulation – EU個人データ保護規則)
EU圏のユーザーの個人情報を扱う場合、GDPRに準拠したプライバシーポリシーの作成とデータ保護体制の構築が必要です。同意の取得方法など、日本より厳格です。 - CCPA (California Consumer Privacy Act – カリフォルニア州消費者プライバシー法)
カリフォルニア州の住民の個人情報を扱う場合、CCPAの要件も考慮する必要があります。 - COPPA (Children’s Online Privacy Protection Act – 米国児童オンラインプライバシー保護法)
米国の13歳未満の児童の個人情報を収集する場合に適用される法律です。
トラブル事例
さいごに、アプリに関するトラブル事例の紹介です。
トラブルを防止するためには、利用規約やプライバシーポリシーの準備は勿論、キチンとした運用の遵守やセキュリティ上の脆弱性への対応が求められます。
「モバゲー利用規約事件」
さいたま地方裁判所 平成 30 年(ワ)第 1642 号 免責条項等使用差止請求事件
オンラインゲームプラットフォーム「モバゲー」の会員規約に含まれる一部条項(免責条項など)が消費者契約法に反するとして、適格消費者団体がその使用差止めを求めた訴訟です。
この判決は、利用規約の不当性を巡る重要な判例の一つとされています。
Catwatchful子供監視アプリのセキュリティ欠陥で個人情報流出
Androidスパイウェアアプリ「Catwatchful」のデータベースにセキュリティ上の欠陥があり、個人情報が流出した事例です。
これは子どもを対象としたアプリのプライバシー問題の一例と言えます。
個人開発こそ専門家への相談を
個人開発においては、法律周りの対応はついつい後回しになってしまったり、力を入れることができなかったりしてしまいがちです。
生成AIで作成したり、類似サービスの利用規約を流用して対応するかもしれません。
しかし、同じように見えるサービスでも、一つの機能の有無だけで考慮・記載しなければいけない事項が変わってきたりもします。
せっかくリリースしたサービスやアプリが、トラブルによってやむなく終了しなければいけないのは実に勿体ないので、個人開発においては、早い段階から専門家に相談することをお勧めします。
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