はじめに|2025年12月施行の「スマホ新法」について

こんにちは。

IT法務を専門とする行政書士のnaoです。

nao

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2025年12月に施行される、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」、通称「スマホソフトウェア競争促進法」(以下、スマホ新法)はご存知でしょうか?

今や我々の生活に欠かせないインフラであるスマホですが、この法律は、私たちのスマートフォンの使い方、そしてアプリ開発やサービス提供のあり方も大きく変える可能性を秘めています。

本記事ではスマホ新法について解説し、具体的な内容、ユーザーへの影響、そしてアプリなどの開発者への影響について分かりやすく解説します。

1.スマホ新法とは?法律の目的と背景

1-1. 通称「スマホ新法」|法律の概要と背景

「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」は、その名の通り、スマートフォン上で利用される特定ソフトウェア市場における公正かつ自由な競争を促進することを目的とした法律です。

通称「スマホソフトウェア競争促進法」や、よりシンプルに「スマホ新法」とも呼ばれています。

この法律は、特定のOS(オペレーティングシステム)を提供する事業者が、その支配的な地位を利用して、市場の競争を阻害する行為を規制するためのものです。

具体的には、アプリストアやブラウザ、決済機能といった、スマートフォンの基盤となるソフトウェアに関して、公正な競争環境を確保するためのルールを定めています。

1-2. なぜこのような法律が必要とされたのか?|独占と競争の課題

この法律が制定された背景には、GAFAに代表される巨大IT企業による市場の独占と、それによって生じる様々な問題があります。

  • 特定事業者による市場支配
    現在、スマートフォンのOS市場は、事実上、Apple社のiOSとGoogle社のAndroidの二つのOSが市場の大部分を占めています。 これにより、この二つの事業者が、アプリストアや決済システムといった、プラットフォームの基盤となるサービスにおいても圧倒的な支配力を持つことになりました。
  • 競争の阻害とイノベーションの停滞
    支配的な地位にあるプラットフォーマーは、自社のサービスを優遇したり、競合他社のサービスを不当に制限したりする傾向があります。
    これにより、スタートアップ企業や中小企業が新しいサービスを開発・提供しようとしても、公正な競争が難しくなり、結果として市場全体のイノベーションが停滞するリスクが指摘されていました。
  • 消費者への不利益
    競争がなければ、サービス価格は高止まりし、選択肢は限られます。
    例えば、特定のアプリストアしか利用できない場合、手数料が高いとアプリの価格にも転嫁される可能性があります。また、自社サービスを不当に優遇することで、ユーザーはより良い選択肢を見つける機会を失ってしまいます。
    このような課題を解決し、より健全な市場を形成するために、EUでは「デジタル市場法(DMA)」、アメリカでは様々な独占禁止法関連の動きが進められてきました。
    日本のスマホ新法も、これらの国際的な潮流と連携し、独自の視点から市場の競争を促進しようとするものです。

2.法律の対象となる「特定ソフトウェア」と「特定事業者」

2-1. 法律が規制する「特定ソフトウェア」とは?

スマホ新法が規制の対象とするのは、単にすべてのスマートフォンアプリではありません。

法律の対象となるのは、以下のような、スマートフォンの基盤となる特定のソフトウェアです。

  • 特定アプリストア:アプリを配信・購入するためのプラットフォーム。
  • 特定ブラウザ:ウェブサイトを閲覧するためのソフトウェア。
  • 特定OS:スマートフォンの基盤となるオペレーティングシステム。
  • 特定決済サービス:アプリ内課金などに利用される決済システム。

これらのソフトウェアは、スマートフォンの利用において不可欠なものであり、これらを支配する事業者が市場の競争を阻害するリスクが特に高いと判断されました。

※前述の通り、実際にはほぼApple社とGoogle社。

2-2. 法律の規制を受ける「特定事業者」とは?

スマホ新法の規制を受けるのは、これらの特定ソフトウェアを提供する事業者の中でも、一定の規模と市場支配力を有すると認められる事業者です。

具体的には、売上高やユーザー数などの基準に基づいて、国によって「特定事業者」として指定されます。

現時点では、この法律の対象となる事業者はAppleGoogleになることがほぼ確実視されています。

両社が提供するiOSとAndroidは、世界のスマートフォンOS市場のほとんどを占めており、アプリストア、ブラウザ、決済サービスにおいても圧倒的な支配力を持っているためです。

3.具体的に何が変わる?法律が課す「行為規制」とは

スマホ新法は、特定事業者が市場の競争を阻害しないように、いくつかの具体的な「行為規制」を定めています。

これにより、これまで慣習となっていたビジネスモデルやユーザー体験が大きく変わる可能性があります。

3-1. アプリストアに関する規制

これまでは、iOSのアプリはApp Store、AndroidのアプリはGoogle Play Storeからしかダウンロードできないのが原則でした。

しかし、スマホ新法は、この状況を大きく変えようとしています。

  • サイドローディングの許可
    ユーザーは、アプリストアを経由せずに、開発者のウェブサイトなどから直接アプリをダウンロードし、インストールできるようになります。これを「サイドローディング」と呼びます。
    これにより、アプリストアの手数料を回避したり、独自の配布方法を選択したりすることが可能になります。
  • サードパーティ製アプリストアの提供
    特定事業者は、自社のアプリストアだけでなく、第三者が提供するアプリストアの提供を許可しなければなりません。
    これにより、複数のアプリストアが競争し、手数料や審査基準に違いが生まれる可能性があります。
  • アプリ内課金の自由化
    これまで、多くのアプリ内課金は、特定事業者が提供する決済システムを利用することが義務付けられていました。しかし、今後は、開発者が独自の決済システムを導入できるようになります。これにより、開発者は決済手数料を抑えることができ、その分、サービスの価格を下げたり、収益を向上させたりすることが期待されます。

3-2. ブラウザに関する規制

  • ブラウザエンジンの選択の自由化
    これまで、iOS上では、Safari以外のブラウザも、内部的にはSafariと同じブラウザエンジン(WebKit)を使うことが義務付けられていました。
    これにより、他のブラウザが独自の機能やパフォーマンスを発揮することが制限されていました。
    スマホ新法は、この制限を撤廃し、他のブラウザエンジン(例えば、Google ChromeのBlinkエンジン)も利用できるようになります。

3-3. 相互運用性の確保と「囲い込み」の禁止

  • データのポータビリティ
    ユーザーは、特定事業者が提供するサービスから、他のサービスへデータを簡単に移行できるようになります。
    例えば、写真や連絡先、カレンダーのデータを、異なるOSやサービスにスムーズに移動させることが可能になります。
  • デフォルト設定の変更の容易化
    特定事業者は、ユーザーがブラウザや検索エンジンなどのデフォルト設定を容易に変更できるようにしなければなりません。
    これにより、ユーザーはより自由に、自分の好みに合わせたサービスを選択できるようになります。

4.ユーザーへの影響|メリットとデメリット

スマホ新法は、私たちのスマートフォンの使い方に直接的な影響を与えます。

どのようなメリットとデメリットが考えられるでしょうか。

4-1. ユーザーへのメリット

  • 選択肢の拡大と利便性の向上
    これまで以上に、様々なアプリストア、ブラウザ、決済サービスから選択できるようになります。
    これにより、より多くのアプリやサービスが提供されるようになり、ユーザーは自分に最適なものを選べるようになります。
  • サービス価格の低下
    アプリ内課金の手数料が下がることで、アプリやサービスの価格が低下する可能性があります。
    また、競争が活発になることで、各サービスがより魅力的な価格設定やキャンペーンを行うことが期待されます。
  • イノベーションの加速
    公正な競争環境が整うことで、新しいアプリやサービスが生まれやすくなります。
    これまで参入が難しかった分野にも、新しいアイデアを持ったスタートアップ企業が挑戦しやすくなり、私たちの生活をさらに豊かにするイノベーションが生まれる可能性があります。

4-2. ユーザーへのデメリットと注意点

  • セキュリティリスクの増大
    サイドローディングやサードパーティ製アプリストアの利用が許可されることで、セキュリティリスクが増大する可能性があります。
    公式アプリストアでは厳しい審査が行われていますが、他のチャネルではその保証がないため、マルウェアや個人情報流出のリスクが高まるかもしれません。
  • サポート体制の複雑化
    複数のアプリストアや決済システムが混在することで、トラブル発生時の問い合わせ先が複雑になる可能性があります。どのサービスで、どの決済方法を利用したかによって、問い合わせ先が異なるため、ユーザー自身が情報を管理する必要があります。

5.事業者への影響|アプリ開発者・プラットフォーマーの対応

スマホ新法は、アプリ開発者やプラットフォーマーにとっても、大きなビジネスチャンスと同時に、新たな課題をもたらします。

5-1. アプリ開発者・サービス提供者への影響

  • 新たな収益機会の創出
    アプリストアの手数料を回避したり、独自の決済システムを導入したりすることで、収益率を向上させることができます。
    また、サイドローディングやサードパーティ製アプリストアの活用により、より多くのユーザーにリーチできる可能性があります。
  • マーケティング戦略の見直し
    これまでアプリストアに依存していたマーケティング戦略を見直し、独自のウェブサイトやSNSを活用した直接的なプロモーションが重要になります。
  • セキュリティ対策の強化
    ユーザーにサイドローディングを促す場合、開発者自身がマルウェア対策や個人情報保護に十分配慮し、信頼性を確保する必要があります。

まとめ|スマホ新法がもたらす今後の展望

スマホ新法により、iOSのアプリはApp Store、AndroidのアプリはGoogle Play Storeからしかダウンロードできなかったところが、さまざまなプラットフォームからダウンロードできるようになる可能性があります。

私たちのスマホの機能や使い方について、大きな変化をもたらす可能性のある法律といえるでしょう。

よりスマホの可能性が広がる反面、よりセキュリティリスクに注意する必要が出てくるなど、個々人のITリテラシーが求められてくるかもしれません。

一方で、アプリ開発者の方にはビジネスチャンスとなる可能性を秘めた変化でもあります。

正しい知識を持って、快適なスマホライフへと繋げましょう!

参考サイト

スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(e-Gov法令検索)