はじめに:許認可とは?

起業を検討されている方の中には、「許認可」という言葉が聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれません。

許認可とは、ある事業を行うために国や地方公共団体から得なければならない許可や登録のことです。

例えば、飲食店を開業する場合には、食品衛生法に基づく営業許可が必要になります。

これは、消費者の安全を守るために、飲食店が一定の衛生基準を満たしていることを確認するためのものです。

なぜ許認可が必要なの?

許認可が必要な理由は、大きく分けて以下の2つが考えられます。

  1. 国民の生命・身体・財産を守るため
    食品衛生法や建築基準法など、国民の生命・身体・財産を守るための法律に基づいて、許認可制度が設けられています。
  2. 公正な競争を確保するため
    特定の事業を行うことで、他の事業者や消費者に対して不当な影響を与える可能性がある場合、許認可によってその行為を規制しています。

許認可が必要な代表的な事業

許認可が必要な事業は、業種によって異なります。

代表的な例としては、以下のような許認可があります。

  • 飲食業:食品衛生法に基づく営業許可
  • 建設業:建設業法に基づく建設業許可
  • 運送業:貨物自動車運送事業法に基づく貨物運送事業許可
  • 美容業:美容師法に基づく美容師免許
  • 旅行業:旅行業法に基づく旅行業登録
  • 介護事業:介護保険法に基づく介護サービス事業者指定
  • 金融業:貸金業法に基づく貸金業登録
  • 不動産業:宅地建物取引業法に基づく宅地建物取引業者免許

許認可の手続きは?

許認可の手続きは、業種や地域によって異なりますが、一般的には以下の流れになります。

  1. 必要な書類の準備:申請書、事業計画書、資格証明書など
  2. 申請先の確認:管轄官庁(市役所、県庁、経済産業省など)
  3. 申請書の提出:必要な書類を揃えて、申請先に提出
  4. 審査:申請内容の審査
  5. 許可・登録の通知:審査の結果、許可または登録が認められれば、通知が届きます。

許認可取得のポイント

許認可を取得するためには、以下の点に注意する必要があります。

  • 必要な資格の取得:一部の業種では、資格の取得が義務付けられています。
  • 施設の基準:施設の構造や設備に関する基準を満たす必要があります。
  • 資金の準備:申請費用や、事業開始に必要な資金の準備が必要です。
  • 専門家の相談:手続きが複雑な場合、行政書士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

許認可取得の流れ~飲食店営業許可申請の例~

許認可の代表的な例として、飲食店の営業許可申請を例に説明します。

レストラン、食堂などの飲食店営業を始めるには、飲食店営業許可が必要になります。

飲食店営業許可申請は、次のような流れで進めていきます。

  1. 事前相談
  2. 申請書類の提出
  3. 施設完成の確認検査
  4. 許可証の交付
  5. 営業開始

※事前相談や許可申請手続は、店舗を所管する保健所で行います。

1.事前相談とは

事前相談は、開業予定の店舗が決まり、内装工事に着手する前の段階で行います。

開業の少なくとも約1カ月前に実施する必要があります。

施設の設計図等を持参しますが、調理場の設備やトイレの位置が決まっていない段階でも相談に応じてもらえます。

飲食店営業許可では、必要な設備の整備状況と食品衛生責任者の配置が主なチェックポイントとなります。

必要な設備

飲食店では、次のような設備が必要です。

① 冷蔵設備:食品保存用の十分な大きさを有する冷蔵設備

② 洗浄設備:2槽以上の洗浄槽(自動洗浄設備がある場合は例外あり)

③ 給湯設備:洗浄及び消毒用の給湯設備

④ 客席:換気設備を設け、明るさは10ルクス以上を確保

⑤ 客用便所:専用の流水受槽式手洗い設備(従業員との兼用可)

事前相談は、調理場の設備やトイレの位置が確定していない段階でも受けられます。

ただし、具体的な基準や要件は自治体によって異なるため、工事前の事前相談が非常に重要です。

食品衛生責任者について

営業許可の取得には、食品衛生責任者の配置が必須条件となります。

食品衛生責任者は、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

① 栄養士、調理師、製菓衛生師などの資格保持者

② 食品衛生責任者養成講習会修了者

申請時に資格者が不在の場合は、「食品衛生責任者を設置する」旨の誓約書を提出することで、開業日までに講習会を受講することを条件に営業が可能となります。

ただし、養成講習会は開催日が限られており、予約が混み合うと数週間待ちとなる場合があるため、計画的な準備が必要です。

営業許可申請で提出書類について

許可申請では、管轄の保健所に次の書類を提出します。

① 営業許可申請書(1通)
② 施設の大要・配置図(2通)
③ 水質検査成績書(貯水槽使用水、井戸水の場合)
④ 食品衛生責任者証
⑤ 登記事項全部証明書(法人の場合)

営業許可申請書の作成

営業許可申請書は、管轄の保健所に備え付けてあるほか、行政自治体のホームページからダウンロードできます。

個人申請の場合は住民票上の住所を、行政書士による代行申請の場合は事務所の情報を、それぞれ申請者住所欄に記載します。

営業設備の大要の作成

営業設備の大要には、調理場、客室、トイレについての概要を記載します。

提示された選択肢から該当項目を選びます。
実際に店舗で調理場やトイレを確認し、現況を記載してください。
不明な項目や該当しない項目は空欄のままで構いません。

作成部数は2部必要です。1部はコピーで対応可能ですが、保健所が用紙を指定している場合は2部とも手書きが必要となります。

添付書類の準備

申請には、営業許可申請書と営業設備の大要に加えて、以下の添付書類が必要です。

①営業設備の配置図(平面図)
調理場の設備、トイレ周りを明確に記載(設備の大要の裏面に直接記入した場合は不要)

②営業所までの案内図
営業設備の大要に直接記入した場合は不要(市販の地図使用時は複製許諾シールが必要)

③食品衛生責任者の資格証明書
資格者証の写しと原本の提示が必要(未定の場合は誓約書を提出、ただし営業開始までに設置が必要)

④水質検査証のコピー
水道直結の場合は不要。貯水槽や井戸水使用の場合は、直近1年以内の検査証コピーが必要。
※テナントビルは多くが貯水槽を使用しているため、早めの入手を心がけてください。

⑤履歴事項全部証明書
法人の場合のみ必要。コピーと原本を同時提出すれば原本は返却されます。

手数料

営業許可申請には手数料が必要です。新規取得の場合、自治体により16,000~19,000円程度です。

施設完成の確認検査

施設完成の確認検査では、営業所の必要設備が整っているかを確認します。保健所の担当者が店舗を訪問し、図面との照合を行います。

(1)検査当日までの準備
新築店舗の場合、特にスケジュール管理が重要です。検査当日にシンクの配管未接続や給湯設備の不具合があると、再検査が必要となります。

(2)客席の完成状況
設備面が重視される一方、客席や調理器具、食器類については未設置でも支障ありません。

(3)追加書類の提出
食品衛生責任者証や水質検査証のコピーなど、申請時に提出できなかった書類は検査時に提出できるよう準備してください。この段階での書類未提出は、許可証交付の遅延につながります。

許認可の取得には時間がかかる

飲食店を例に許認可の流れを解説しましたが、お分かりの通り許認可の取得までには結構な時間がかかります。

許認可が必要な業種については、許認可取得後でなければ営業することができません。

つまり、事業開始までに許認可を取得することができなければ、それだけ事業の開始が遅れることとなります。

許認可については、できるだけ早い段階で取得に向けて行動することが重要です。

事業の展開によっては追加の許認可が必要なことも

既存の事業を基に、新たなサービスや商品を追加する場合、既存の事業の許認可だけでは不十分なケースがあります。

新事業の展開や新サービスを開始する場合は、必要な許認可が発生しないかを確認しましょう。

  • 例:飲食店がデリバリーサービスを開始する場合
    • 食品衛生法に基づく営業許可に加え、新たに食品表示法や宅配便に関する規制を遵守する必要があります。
  • 例:美容室がエステサービスを始める場合
    • 美容師法の範囲を超える施術を行う場合は、新たに医師の免許が必要な場合や、医療行為に該当する可能性があります。
  • 例:デザイン会社が、ロゴデザインに特化したサービスを提供する場合
    • 著作権法や商標法などの知的所有権に関する知識が必要となります。

まとめ

起業分野を選ぶ際には、事業内容だけでなく、それに伴う許認可についても十分に検討する必要があります。

許認可の有無や内容によって、事業の成否が大きく左右されることもあるため、事前にしっかりと準備を行いましょう。

本記事が、あなたの起業のお役に立てれば幸いです。

ご依頼・お問い合わせ