はじめに:自家焙煎珈琲のネット販売と法規制
趣味でお菓子作りをしていたり、珈琲が好きで自家焙煎をしていたりする人。
あるいは起業して食品の販売をしている事業者。
食品を扱っている人で、リアル販売のほか、インターネット経由での食品販売にチャレンジしてみたい、と思う方も多いでしょう。
一方で、食品をインターネット販売する際には、何か規制があるんだよね?と漠然とは思いつつ、法律に違反したり、あるいは販売した商品で食中毒が起こったりしたらどうしよう、と不安に思う方も多いのではないでしょうか。
実際、食品をインターネット販売する際には、様々な法規制に注意する必要があります。
この記事では、食品のインターネット販売として、「自家焙煎珈琲豆をネット販売する」というシチュエーション設定で、食品のネット販売で知っておくべき法規制について詳しく解説します。
これからコーヒー豆のネット販売を始めたいと考えている方や、食品のネット販売全般に興味のある方は、ぜひ参考にしてください。
食品のネット販売で知っておくべきこと
食品のネット販売は、従来の実店舗での販売とは異なり、消費者との直接的なやり取りが少なく、情報伝達が難しいという特徴があります。
そのため、食品衛生法をはじめとする様々な法律を遵守し、消費者に対して正確な情報を提供することが求められます。
以下は関連する法律の例です。
食品衛生法
食品衛生法は、食品の製造、加工、販売などに関わる全ての事業者が遵守すべき法律です。
食品の衛生管理基準を定め、食中毒の発生を防止することを目的としています。
コーヒー豆を自家焙煎して販売する場合には、食品衛生法に基づき所管の保健所に「営業届」の提出が必要となります。
また、営業届けにあたっては「食品衛生責任者」の資格取得も必要となります。
食品衛生責任者については以下の記事もご参照ください。
食品表示法
食品表示法は、食品の包装や容器に表示すべき事項を定めた法律です。消費者が食品を選ぶ際に必要な情報(名称、原材料名、内容量、賞味期限など)を正確に表示することが義務付けられています。
自家焙煎珈琲の場合、以下のような表示が必要です。
名称 | レギュラーコーヒー |
原材料 | コーヒー豆 |
生豆生産国 | ブラジル・エチオピア |
内容量 | 100g |
賞味期限 | 2025年10月1日 |
保存方法 | 直射日光と高温多湿を避け、 保存してください。 |
使用上の注意 | 開封後はなるべく早くお召し上がりください。 |
製造者 | トライ珈琲店 神奈川県横浜市〇〇-△△ |
※どのような表示が必要かは、食品表示基準に記載されています。
ちなみに、賞味期限については厳密に法律で決められているわけではありません。
その食品の特性(食品の原料、作り方、その後の保存方法など)に応じて、その食品を製造・加工したメーカーが、保存試験などを行い、設定するものとなります。
景品表示法
景品表示法は、誇大広告や虚偽表示などを規制する法律です。
食品の品質や効果について、事実と異なる表示をすることは禁止されています。
例えば、以下のような表示はすべて法律に抵触する可能性が高いため、注意が必要です。
- 「コーヒーを1日3杯飲むと、がんを防止できる!」(景表法、薬機法)
- 「自家焙煎珈琲販売量No.1」(景表法)
※客観的に「No.1」が証明できるのであれば問題ありませんが、誇大広告のおそれあり - 「芸能人の〇〇さんも愛飲!」(パブリシティ権の侵害)
特定商取引法
インターネットで商品を販売するにあたっては、特定商取引法に基づく表示が必要です。
特定商取引法とは、訪問販売や通信販売など、消費者トラブルを起こしやすい取引類型ごとにルールを定めている法律です。
通信販売においては、以下のような事項をサイトに明示する必要があります。
① 対価・送料
対価はその商品・サービスごとに異なるため、特定商取引法に基づく表示では「商品・サービス毎に記載」と記載するにとどめ、各商品・サービス紹介ページに記載することが一般的です。
送料については、実際に送料がいくらかかるのかを明確にする必要があります。
※そのため、「実費」や、「○円~」という記載はNG。
② 対価の支払時期と支払方法
支払時期は、前払いの場合はその旨を、後払いの場合は具体的な支払期限を記載します。
支払方法については、以下のような形式で、対応している方法をすべて記載する必要があります。
例)代金引換(商品代引)、クレジット決済(前払い)、paypal決済(前払い)、銀行振込(前払い)、現金書留(前払い)
③ 引き渡し時期・サービスの提供時期
引き渡し時期については、期間(入金後○日以内)や期限を具体的に表示する必要があります。
※日数までは示さず、「速やかに」「直ちに」といった速やかに引き渡すことを意味する表現もOK
④ 返品特約
返品に関する特約です。
返品というと、「クーリング・オフ」を思い浮かべる方も多いかと思いますが、そもそも通信販売にはクーリングオフは適用されません。
クーリングオフは例えば訪問販売で購入した商品が思っていたのと違った、などの場合に消費者を保護するための制度ですが、そもそも通信販売は購入者がじっくり検討する時間がある購入形態なので、クーリングオフは適用されないのです。
しかし、通信販売において全く返品ができないかというとそういうわけではなく、「法定返品権」という制度があり、これは返品について特約がない場合は、購入者は商品到着の8日以内であれば理由なく返品できる、という制度です。
一方で、この法定返品権はあくまで返品に関する特約がない場合であり、返品特約がある場合は特約の方が優先されます。
特に食品については、腐敗や賞味期限切れなどの可能性もあり、慎重な対応が必要です。
一般的には「食品の性質上、お客様都合による返品・返金・交換は不可」などとする場合も多いです。
どの程度まで返品を許容するかは、事業者のサービスレベルにも関係してくるため一概には言えませんが、トラブルの防止のためにも、返品特約の明示は重要なポイントです。
⑤ 事業者の名称、住所、電話番号(法人の場合は、代表者または業務責任者の氏名も)
販売する事業者の名称、住所、電話番号など、販売者及び連絡先を明示する必要があります。
などなど、食品のネット販売では、食品衛生法、食品表示法、景品表示法以外にも、消費者の保護に関する法律、特定商取引法など、様々な法律が関係してきます。
ネットショップの開設と運営
コーヒー豆をネット販売するためには、自社でネットショップを開設するか、ECモールに出店するなどの方法があります。
ECモールとは、Yahoo!ショッピングや楽天市場、メルカリなど、複数の商店が出店するインターネット上のショッピングモールです。
それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社にあった販売方法を検討しましょう。
自社でネットショップを開設する場合
- メリット
- デザインや機能を自由にカスタマイズできる
- 独自ドメインを取得できる
- 販売手数料が不要
- デメリット
- 開発費用や運営費用がかかる
- 専門知識が必要
ECモールに出店する場合
- メリット
- 短期間で手軽に販売を開始できる
- ECモールの集客力を利用することができる
- デメリット
- 出店費用がかかる
- デザインや機能が制限される場合がある
- 競合が多い
まとめ
食品のネット販売は、店舗不要で固定費が少なく済むと同時に、販路を広げる有効な手段です。
まずはネット販売で売上やマーケティングを行い、傾向を見てその次のステップに進むなど、販売を始めるための手段としては魅力的なビジネスモデルですが、食品を取り扱う以上、法規制を遵守することが不可欠です。
この記事では、コーヒー豆を例にネット販売で知っておくべき法規制について、概要を説明しました。
販売する食品によっては、異なる規制や許認可が必要になったり、あるいは自社のWebサイトで商品を販売する場合は、サイトのプライバシーポリシーや利用規約など、他にも検討しなければいけない項目が出てくる可能性があります。
実際にコーヒー豆(食品)のネット販売を始める際には、必ず専門家(行政書士、弁護士など)に相談することをおすすめします。
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